肺の病が原因で微熱のためか、爪に変化が現れた情景を、「死病得て爪美しき火桶かな」と、飯田蛇笏が詠んでいます。作家の高見順が闘病手記『死の淵より』に、食道ガンの手術後八か月たった頃のことを「爪にガクンと跡が残り、それが爪がのびるとともに消えるのに半年近くかかった」ことを記しています。このような爪の異常は、体調や生活環境、栄養不良、ストレスなどが原因となって変化が起きてきます。爪の変化は、(1)爪の形の変化(変形)(2)爪の色の変化(変色)(3)爪周辺(爪廓部)の変化。と、三つに分けられますが、それぞれが単独で現れることはありません。自分の爪の特徴などを知っておくことも大事なことです。肺ガンの検査では、肺門型の場合、心臓の影になったりして初期の小さな原発巣の発見が困難なことが多いようです。ところが最近の傾向として肺門型のガンが増えているそうです。肺にガンの病巣ができる原発性肺ガン患者の六〇パーセントは、初期症状で「バチ爪」が現れることが多いとの調査報告があります。これは医学者の間では、相当古くから知られていました。紀元前四百年のギリシャの名医ヒポクラテスは、「肋膜および肺の炎症が化膿し始めるとき、バチ指になる」ことを指摘しており、現在でもバチ指のことを「ヒポクラテス指」とも呼んでいます。爪の研究者の車萬彦博士に伺いますと。「バチ指になる原因は、指先の血流量が増加するためと考えられています。しかし、なぜ血流量が増えるのかについては、現在のところ分かっていない」ということです。タバコが多くのガンに影響を与えることはすでに知られておりますが、特に肺ガンの最大の原因と言われています。タバコは絶対やめることはできない、という愛煙家のみなさまは、せめてバチ指になっていないかどうか、時々自分の指先を注意することをおすすめします。